2023年6月1日より、岐阜大学大学院 医学系研究科医科学専攻 生殖·発育医学講座 産科婦人科学 教授に着任しました磯部真倫です。大学病院、関連病院、同門会の皆様に大変良くしていただき、岐阜の地に慣れてきました。私のことをあまり知らない学生、研修医もいるかと思いますので、まずは私の自己紹介をします。
出身は山形県山形市で2002年に山形大学医学部医学科を卒業し、そのまま山形大学産婦人科に入局しました。産婦人科医になった理由は、当時山形大学産婦人科の教授であった倉智博久先生の臨床実習が大変面白かったからです。「学生実習が将来の進路に大きな影響を与える」ことを身をもって体験しました。その後、2008年から手術の研鑽のため大阪労災病院で勤務しました。大阪では朝から晩まで臨床にどっぷりつかり、多くの手術を経験しただけでなく、医師としての在り方をメンターである山嵜正人部長から教わりました。また、大阪労災病院の先輩弟子である金尾祐之先生(現癌研有明婦人科部長)に出会い、当時黎明期にあった腹腔鏡手術の指導を受けました。低侵襲手術の時代が必ず来ると考え、日々トレーニングや手術に明け暮れました。2013年には、新潟大学産婦人科の榎本隆之教授からの招聘を受け、新潟大学に助教として着任しました。ミッションは、新潟県における腹腔鏡手術の実施、教育、普及でした。腹腔鏡手術の地域間格差は日本の産婦人科が抱える社会問題です。当時新潟県には、腹腔鏡の技術認定医は誰もいませんでした。新潟県内において9年間で22名の腹腔鏡認定医を育成し、新潟県のどの地域でも患者が大きな移動をせずに標準治療を受けることができるようになり、同時に私の指導無しで、各々の土地で手術が実施できるようになりました。また、その教育力が全国的に評価され、腹腔鏡の普及が遅れている計7大学で技術指導を行いました。手術教育に取り組む中で、次に行ったことは、臨床実習改革です。当時の新潟大学産婦人科の臨床実習は学生にとって最も不人気な診療科でした。その結果、入局者が1名と大きく減少し、地域医療の継続や研究が困難な状況になっていました。「学生実習が将来の進路に影響を与える」ことを十分に理解していたために、産婦人科の魅力を知ってもらうには、臨床実習の改革を行うことが重要であると考えました。教室員と力を合わせ、シミュレーターを購入するなど改革を実行し、3年間かけて新潟大学において最も人気のある診療科へと変革しました。入局者も大きく増加し、新潟大学産婦人科の医局が大きく発展する礎を作りました。新潟大学の卒業生は多くは関東へ帰りますので、入局者のほとんどは新潟大学の卒業生です。新潟県は、他県からの医師の流入がほとんどありません。そのような状況の中、入局者を増やしました。また、日本産科婦人科学会の調査によると現在、日本の新規専攻医の出身大学を調べると国公立大学では新潟大学の卒業生が最も多いようです。日本全体の産婦人科医の増加に貢献できたわけであります。
そして、教育に没頭する中で、次に行ったことは、教育を学問として学ぶことでありました。京都大学、名古屋大学で医学教育学の専門家である錦織宏教授に師事し、医学教育を系統的に学びました。教育熱心なだけでなく、教育理論を学ぶことで、教育がうまくいく裏付けを知り、臨床医と医学教育学の架け橋となる存在となり、全国の産婦人科のみならず、外科、大学医学部において指導医養成(FD)の講演に招聘していただくようになりました。
このように教育について研鑽を積んでいく中で、その教育力が病院長に評価され、大学病院の臨床研修センターの副センター長となり、大学病院の臨床研修の改革を行いました。地方はどこも研修医の獲得に苦慮しています。特に地方国立大学病院は、地方であること、患者背景、救急医療、給与面などから研修医獲得に大変苦慮しています。新潟大学も長年研修医獲得が低迷していました。病院長やタスクフォースのメンバーと日々討論を重ね、改革を実施しました。また、改革を周知し、病院全体の意識改革を行うために、ほぼ全診療科の医局会に参加し、臨床研修の改革の必要性を訴えました。努力が実り、大学病院の雰囲気も変わり、臨床研修医も最終的に3倍増となりました。その後、2023年1月に新潟医大学医学部医学科医学教育センター准教授となり、学部教育の統括も行い、そして6月には、岐阜大学大学院 医学系研究科医科学専攻 生殖·発育医学講座 産科婦人科学 教授として着任することになりました。私のこれまでの医師人生を振り返ってみますと、教育を専門とする臨床医という一本筋の中、「地方の中で人を集め、人を育て、自立させる」きたわけであります。
岐阜県で6か月間働いてみて気づいた岐阜大学とその関連病院の良さをあげてみましょう。まずは、岐阜県の医療システムの素晴らしさを感じます。病院の集約化、周産期体制の構築、がん生殖、腫瘍の集約化など効率よく診療を行う体制がすでに整っています。そして、その臨床のレベルひとつひとつがとても高いです。また、若手医師が経験できる症例が豊富です。地方と言えども人口の多い岐阜県です。また、産婦人科医が決して多くない岐阜県では豊富な症例数を有しています。その中で、岐阜県の若手産婦人科医は、産科、婦人科ともにバランスが良く経験することができます。どうしてもプログラムにより学べる領域に偏りが出る傾向がありますが、岐阜県の若手医師はバランスよく幅広い診療能力を持っています。また、岐阜大学が持つ関連病院も周産期が強い病院、内視鏡手術が強い病院、婦人科腫瘍が強い病院、総合的な能力を身につけることができる病院など多様な病院群を有しています。これらをローテーションすることで幅広い診療能力を持つ産婦人科医になることができます。これらの病院群の中で、若手はどんどん手術経験を積んでいます。岐阜大学の若手医師は、とても手術が上手と感じます。そして、岐阜大学関連の皆さんは、とても一生懸命に仕事に打ち込みます。この仕事に対する姿勢は、若手医師にとって良いお手本となるでしょう。また、医局の雰囲気がとてもよいです。皆和気あいあいと、やりがいをもって臨床に打ち込んでいます。岐阜大学の医学部生にも産婦人科教室はもっとも雰囲気がよいとよく言われます。そして、岐阜大学関連の先生たちは、とても教えることが好きで、若手医師の成長をサポートしてくれます。医局員が力を合わせて作り上げるハンズオンセミナー、「夢プロジェクト」はまさに岐阜大学関連の先生たちの教育の熱心さを感じることができる場であります。
こらからの岐阜大学での抱負をお話しします。岐阜大学においては、臨床·研究·教育の発展に全力を尽くしたいと考えています。そして、産婦人科の主たる4分野である周産期、腫瘍、生殖、女性のヘルスケアをバランスよく発展させていきます。特に手術教育は得意です。岐阜県の若手医師の育成に尽力し、岐阜県全体での手術スキルの向上に努めます。そして、教室の発展のためには、教室員各々が自律的に課題意識を持ち、自ら解決していく必要があります。そのために私は、教室員が自律的に活躍するためのサポートとその環境整備を行います。
また、産婦人科医を増やすために最も重要なことは、教室員が日々幸福感を感じながら、活き活きと診療することです。そのためには、やりがいをもって診療し、スキルアップしてもらうことはもちろんのこと、職場環境、家族との時間など多面的な角度から教室員の人生が豊かになることが必要です。産婦人科という視点はもちろんのこと、仕事、学び、生きがい、家族など様々な視点から教室員とともにキャリアを考えていきたいと考えています。
岐阜大学を若手医師に魅力ある、そして全国から人が集まる教室にしてまいります。学生、研修医の皆さん、岐阜県で産婦人科医として働きましょう!待っています。