かわばたレター 研修編 Part 2    

                                                                松波総合病院 周産期対策室長 川鰭市郎

 

 若手医師が都市部に集中している!地方は医療過疎!!こんな話がいたるところで飛び交っています。都市部の大きな病院に行かないといい初期研修ができない、そう思っている医学生が増えてきているようです。本当にそうなんでしょうか。

 確かに都市部には人口が多いです。人が多ければ病院にかかる人数が増えるのは当然です。分娩数だって、東京はむしろ増加しているくらいなんですから、出産に対応する施設も医師数も多くなければならないですね。でもここに大きな落とし穴があるんです。

 いくら分娩数が多くても、そこに医師が集まりすぎると、産科医として分娩に立ち会うチャンスは逆に少なくなってしまうんです。婦人科の手術だって同じことですね。つまり体力があって吸収力もある若い世代が経験不足になってしまうんです。技術はいくら本を読んでも身に付きません。これは医療に限ったことではないんです。日本の伝統技術が継承者不足に悩んでいるように、都市に群れた若い医師は十分な経験を積むことなく、時間だけが過ぎていってしまいます。ある程度の年齢になると、手術などの技術の習得は簡単じゃないんですよ。日本の職人さんたちは口を揃えて言います。二十歳過ぎてからじゃ遅い、達人と呼ばれる人たちは十代から研鑽を積んでるよ。確かにそうですよね。

 医師は国家試験を受けるためには6年間大学に通わなければなりません。どんなに早くとも24歳くらいになってしまいます。それだけに医師になってから数年はとても大切な時期なのです。その時期を人ごみにまぎれて過ごすと、十分な経験がないにもかかわらず、後輩たちが続々とやってきてしまいます。自分の経験不足にはおかまいなく、彼らの指導をしなければならなくなってしまうんです。

 東京へ行けば、大阪に行けばなんとかなる。これは高度経済成長期、つまり昭和の時代の発想です。私が在籍していた長良医療センターは全員主治医性でした。次々にやってくる多彩な症例をみんなで経験できたんです。東京へ行ってAKB48のセンターになるのは大変です。地方で頑張ればAKB48と共演するチャンスが産まれてきます。

 今岐阜は産科医、産婦人科医が不足しています。岐阜で研修すると忙しいかもしれませんが、5年とは言いません、3年でAKB48を目指した同級生との間に、圧倒的な経験値の差が出てくるでしょう。そのときになって初めて、岐阜にいて、地方で研修医をやっていてよかったと、心の底から思うでしょうね。

 たとえAKB48に入れたとしても、総選挙で下位にいたんでは頭角を現すことは不可能ですね。地方で地道に頑張っていると、光があたる可能性がむしろ高くなるんです。宮根誠司や、やしきたかじんのように。胎児診断治療で日本の最先端の一角を担う長良医療センター産科のように。みなさんはどっちの道を選びますか?

夢プロジェクト「ぎふの産婦人科医の魅力」岐阜県、産婦人科医、医学生向けイメージ01
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