「先生、お産です」
当直室の受話器を置き、分娩室へ。分娩台には
必死にお産に挑んでいる汗だくの妊婦さん、
周囲には不安そうな表情のご主人、
一緒に力をいれながら応援しているおばあさん、
「がんばれー、あと少し!」。
・・・
「おめでとうございます!」
赤ちゃんの声が聞こえた瞬間、妊婦さん、ご主人は手を握り合い我が子の誕生に感謝、安堵と喜びで分娩室が満たされます。
「この子は先生のお父様に取り上げてもらったんですよ~」
と笑顔でおばあさんが教えてくれます。
おばあさんの出産に父がたちあい、
この妊婦さんが生まれ、
その妊婦さんの出産に息子の私がたちあう。
一次施設では時々あることなんですが、命の繋がりを感じる、産科医として本当に嬉しい瞬間です。
一次施設の魅力は地元のお産を担当することにあります。当たり前に思うかもしれませんが、実はとても重要で難しいのです。どの地域にも医療圏が存在します。一次施設はその医療圏のある意味では最前線と言えると思います。
多くの妊婦さんは最初に一次施設を受診されます。ほとんどはローリスク妊娠なのですが、その中にハイリスク妊娠も存在します。ハイリスクをできるだけ早い段階で認識し、然るべき対応をとることが求められます。また妊娠はローリスクが突然ハイリスクに変わることもしばしばあります。この変化を見逃さないこと、分娩中、出産後の様々な問題にも対応せねばなりません。
ローリスク妊娠に対しても患者教育、育児指導、栄養教室、マタニティーヨガなどのアクティビティ、母乳外来など地元の妊婦さんが安心して出産できる環境づくりも必要です。また地域に分娩場所を提供するとういう大事な役割があります。地元に分娩場所がなかったら、その地域の妊婦さんはどうするのでしょうか? 分娩場所を確保、維持することは、一次施設の最も大切な仕事のひとつです。
地元にお産施設がない場所が日本全国にはおおくあります。岐阜県はといいますと、非常に恵まれている地域と、そうでない地域があります。岐阜市周辺は一次施設が多く、飛騨地区、東濃地区は少ないのが現状です。しかし岐阜市も10年後にはお産施設が減少する見込みです。一次施設の産科医の高齢化や産婦人科医師不足が原因です。
一次施設の減少は各医療圏の崩壊を意味します。ハイリスク妊娠を主に診療する高次施設にローリスク妊娠が集中したり、数少ない一次施設にお産が集中し医師の過労や、場合によってはお産難民をつくってしまったり。この現象が日本各地ですでに起こっているのです。
まだ岐阜地域は医療圏が保たれていますが、これから維持し、岐阜県全体の産科医療を支えて行くためには若い力が必要不可欠です。 産婦人科医師としての生き方は多岐にわたります。きっと皆さんにあった生き方があると思います。
「地産地育」
最近教えて頂いた言葉で私の目標です。地元に根付いた分娩場所を、次世代に繋ぐ誕生の場を、
一緒に守り、作っていきましょう!