潜在的な需要がありながら、これまで誰も手をつけずに隙間になっていたような分野のことを「ニッチマーケット(=隙間市場)」といいますが、子宮脱や膀胱瘤、直腸瘤といった骨盤臓器脱の診療はまさにこの領域といえるのではないでしょうか。臓器下垂や尿失禁など命に関わらないこれらの疾患に対して、分娩や癌で忙しい産婦人科医は、とりあえずペッサリーを押し込んでお茶を濁す、泌尿器科医なら排尿は診るけど脱治療はギネに行ってね、と大抵の場合はこうなります。手術といえば、これまで産婦人科医は出ているモノが子宮だろうが膀胱だろうが腸だろうが、排尿の不具合があろうがなかろうが、一律に膣式子宮全摘や膣閉鎖術をしてきました。再発のリスクや合併症も多い高齢患者さんにとって外科的治療はさらに敬遠されがちで、当時こうした終わりのないペッサリー交換に通う患者さん達で外来は連日溢れていました。
2004年、フランスでポリプロピレンメッシュを使った低侵襲で確実なTVM手術(Tension -free Vaginal
Mesh)が誕生し、瞬く間に世界中に普及しました。2007年日本産科婦人科学会で私はこの術式にたまたま出会い、とりあえず自分の外来患者さんの数を減らす目的で勉強し始めました。いざこの世界に足を踏み入れてみると、全国のギネやウロの職人気質な先生方が日本でより良い手術を展開すべく、熱く議論しあうコアな学会、権威の先生にも気さくに相談できるアットホームな雰囲気にすっかり魅了されてしまいました。地方の病院で誰も知らない手術を一から立ち上げることは骨が折れましたが、科を超えて多くの先生方に協力していただき、ウロギネコロジーという新しい分野に今まで行き場のなかった患者さんたちのニーズがピッタリはまって、遠方からの紹介や出張手術を手がけるまでに至りました。
産婦人科診療の4大柱である「周産期」「腫瘍」「生殖内分泌」、最近追加された「女性医学」ですが、その中の一つがウロギネコロジーです。QOL向上のための手術なので、まず安全が第一です。新旧含め、術式は改良・進化し続けており、ちょっとサボっているとあっという間に置いていかれてしまう、伸びしろいっぱいの分野とも言えます。
これからの高齢社会は“歳をとってもハツラツと人生を楽しむ”ことがますます求められるのではないでしょうか。「nicheでこんなhuge
marketをやらない手はないよ。」いつかオーストラリアの先生が言っていたのが印象に残っています。勇気を振り絞って門を叩いてくれた患者さん達が、治療の末、ご主人と仲良くウォーキングをしたり、お友達と温泉やバス旅行に心おきなく出かけられるようになったと涙を流しながら喜ぶ姿に毎回励まされます。女性の一生の健康を担う産婦人科医として、悩めるご婦人方に少しでもよい医療が提供できるよう日々精進していくと共に、岐阜から女性骨盤底医療を一緒に盛り上げていく同志も大・大・大募集しております。