周産期の光と陰が混在している岐阜。本来は光の部分の輝きがなくならないような努力が必要なんですが、もっぱらの関心は陰の部分に集まります。どうすればいいのか。これは簡単なことではないんです。飛騨地区や東濃地区は、地理的な問題も抱えていますが、基本的には岐阜県の深刻な産科医不足を解決することしかありません。
下呂温泉病院が医師不足で大変だったとき、長良医療センターから週1回応援を出したことがあります。これがどこまで役にたったのか、という疑問の声もあったんですが、私は大いに意味のあることだったと思ってます。下呂病院にどういう人材がいるのか、そして下呂のお産の実態を見ることができました。ではどうすればいいのか。下呂病院でより安全な出産が可能となるためにどうすればいいのかがはっきりとわかりました。下呂温泉病院の助産師はしっかりしてます。この助産師を有効に活用すれば医師の負担は軽減するんです。そのためには、ローリスクの中に埋もれているハイリスク症例のトリアージが重要だということを実感することができました。
東濃の恵那市には産婦人科医が1人もいませんでした。お産どころじゃないですよね。もちろん市民の皆さんは分娩再開を切望してます。下呂市も同じなんですが、若い人たちが流出して高齢化が進み、人口減少に悩んでるんです。分娩再開ができればこの問題も解決するのでは、これが市長をはじめとする行政の皆さんの思いでした。でも産科医はそもそも足りていないんです。そんなに簡単に産科医がやってくるとは考えられないですし、産まれた子どもを育てやすい環境が整わなければ、人口減少は続くでしょうね。
長良医療センターには「ママいちいちきゅう」という産後ケアを行う助産師外来があります。診療開始当初から続けてるんですが、今では受診数がなんと年間1000件をこえてるんです。これだけのニーズがあるんですから、たとえお産ができなくても助産師が中心になって、母乳栄養を進めたりしながら産後ケアを行うことができれば、恵那市や周辺のお母さん達にはきっと喜んでもらえると考えました。ところが恵那病院には助産師が1人もいなかったんです。そこで、とにかく助産師を1人獲得してほしいとお願いして、産後ケア助産師外来をスタートさせました。
恵那病院の産後ケアは大いに反響がありました。特にこの地域で埋もれている助産師さん達の注目が集まりました。1年後には恵那病院の助産師は4人になり、その後7人まで増えていきました。都市部では核家族化が進み、育児に悩む若いお母さんが増えてることが指摘されてるんですが、おばあちゃんが身近にいることが多い地域でも、育児に悩んでいるお母さんがいることがはっきりしたんです。
産科医が急に増えることは難しいのが現状です。だとすれば、出産にかかわる助産師に元気になってもらって、いっしょに周産期医療を支えていかなければならないんです。
本来出産は助産師だけでも取り扱えるんです。そこに産科医が加わることで、より安全な出産が可能となります。恵那市の分娩再開に向けていい形ができてくれました。
もしも私が大都市に働きかけたら、このアイデアは実現可能だったんでしょうか。地方の小さな自治体だからこそ、実現できたんじゃないでしょうか。地方だからこそできる活動なんです。大きな自治体になればなるほど、こうしたアイデアの実現には障害がたくさん出てくるんです。地方の小さな自治体と一体となって活動すれば、やがてその動きは国全体にまで広げることができるんです。地方から情報発信、今まさにそういう時代なんです。